愛する龍馬になり代わり
これからも伝えていきたい

「鞆龍馬おもてなし隊」大西公孝さん 佐藤知代さんの物語り

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鞆龍馬
おもてなし隊
大西公孝さん
佐藤知代さんの物語り

鞆の龍馬の
おもてなし

「鞆龍馬おもてなし隊」
大西公孝さん
佐藤知代さん

長い時を刻んできた港町・鞆の浦。
そこは、あの幕末の志士・坂本龍馬ゆかりの地でもある。

そこでぼくは、気さくな笑顔が温かい、
二人の龍馬に出会った。

坂本龍馬に扮し、観光客をもてなす、
「鞆龍馬おもてなし隊」のおふたり。

江戸風情が残る町中で、堂々と佇む二人の龍馬に、
ぼくは惹きつけられ、目が離せなくなった。
凛(りん)と袴を身に付けて、
刀を腰に差す勇ましいおふたり。

その姿に最初は気づかなかったが、
一人は、なんと女性だった。

威厳があり、なおかつ、はつらつとした大西公孝さん。
華やかで親しみやすい笑顔が印象的な佐藤知代さん。

そんな鞆を愛する、龍馬たちの物語り―。

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贅沢な時間

年齢制限を超えて

目が離せなくなってしまったぼくに気づき、
龍馬のおふたりが、気持ちの良い笑顔を向けて、
話しかけてきてくれた。

歴史ある町中を歩きながら、
おふたりの話に耳を傾ける。 龍馬と一緒に鞆歩き。
なんと贅沢な時間だろう。

この「鞆龍馬おもてなし隊」は、公募だったという。

貫禄ある“男龍馬”、大西さんは、
どうして龍馬になろうと思ったのだろう。

「龍馬の格好、いでたちが好きだから。
ぜひ、これはやりたい」

と思ったと―、明快で心が和む理由だ。

「二十代から三十代に見える人っていう
年齢制限があったんですが、気にしなくていいと思った」

「なるほど」と、ぼくはうなずく。

確かにそう話す大西さんは、若々しくかつ力強くて、
龍馬にぴったりだ。
好きだ、と話す龍馬姿も、とてもよく似合っている。

その姿は、ぼくの龍馬のイメージと、
ぴたりと重なる。

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心にしみる
人とのふれあい

人の心に、残りたい

大西さんは、「実はね」とちいさく切り出した。

「なんですか」

その言い方に心ざわつき、
ぼくは、先を急かすようにたずねる。

「妻が、がんを患っていてね。
このおもてなし隊も、やっていいのか、申し訳なくて」

しかし、観光客や町の方からの反響は大きく、
今では、続けてよかったと思えるようになった。

奥さんも奇跡的に助かったのだという。
よかった、ほんとうに。

そして、大西さんは力強く、言葉を継ぐ。

「鞆には龍馬がいる、 そう思ってくれる方のために、
続けていこうってね」

「そうですよ。皆さんのために続けてください」

ぼくは嬉しくなって、つい、
大きな声を出してしまった。

大西さんはやわらかく笑いながら、続ける。

「こんなこともあったんだよ。
観光に来てくれた老夫婦と話をした際、
鞆を気に入ってもらえて、
また来たいとおっしゃってくれてね。
そのご家族がパーティをすることになり、
おいしい牡蠣の店を紹介したことがあったんだ。

でも、その後、ご主人が亡くなって、
奥さんはそのことを知らせるため、身内の方とか、
親しい少人数にだけ葉書を出されたそうでね。

その中の一枚がね、私に届いたんだよ」

「その方にとって、大西さんと過ごした時間は、
大切な思い出だったんでしょうね」

なんだか、心が温まってきた。

「たった一時間程度話しただけだったのに、
龍馬として、色々な人と接することで、
人の心に残れた。それが嬉しかったなあ」

感慨深げに語る大西さんの姿を見て、
ぼくは、素直に、なんだかいいなぁと思った。

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「龍馬求む」に
引き寄せられて

性別の常識を超えて

絵になる鞆の浦の景色の中で、
一際、雅やかな女性龍馬、佐藤知代さん。

きりりとした立ち振る舞いとギャップのある、
朗らかな笑顔で話をしてくれる。

「何をきっかけに龍馬になったんですか」

女性の龍馬、そのことに興味がそそられる。

「ホテルでアルバイトをしているんですけど、
お客さんに自信を持って、鞆を紹介できるように、
という理由もあって『知っとる検定』を受けたら、楽しくなって」

『知っとる検定』というのは、
福山のご当地検定のことだ。

そうして、鞆の浦への興味を養っていたところに見つけた募集。
「龍馬求む」、その言葉に引き寄せられて、応募した。

「当時女性は、たった一人でした」
龍馬だから男、そんな常識を打ち破った。

佐藤さんは、最初、男らしい龍馬の衣装を着て町を歩くことに、
「勇気が必要だった」と、笑いながら言う。
そして今でも毎回、緊張するそうだ。

それでも、龍馬姿の佐藤さんは、
精悍な面構えで、ぴしっと、様になっている。

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笑顔と愛の連鎖

町中がつながっている

「龍馬として大きな活動に参加させてもらって、
歴史の勉強にもなるし、自信にもつながった」

そう話す佐藤さんは、本当に輝いて見えた。

「鞆が好き。人との出会いや交流が喜びなんです」

そう続けて、口元を綻ばす佐藤さん。

彼女の、鞆の浦への、人への愛が伝わって、
そうして、周りにいるみんなは、自然と笑顔が零れてしまう。
町の住民も観光客も、にこにことつながっていく。

「佐藤さん目的で来る人もいるよ」と、
大西さんは隣で微笑む。

観光客に心を込めて対応している、
佐藤さんのこの姿を見ると、
うん、なるほど納得できる。

佐藤さんの笑顔と愛が伝わって、
ぼくの心も、ほわりと、あたたかくなった。

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歴史と共に生きる

時間をさかのぼって

実はこのおふたり、とてもアクティブな一面も持つ。

佐藤さんは、二十キロの福山マラソンの部門別で、十五位。

大西さんは、町民運動会に出場し、
なんと、龍馬姿で走るという。

「二つ返事で承諾しました」

大西さんは、白い歯を見せて笑う。

ぼくも、つられて笑いながら、言う。

「マラソンを走って、運動会にも登場する。
そんな元気いっぱいの龍馬たちの姿が、
見ている人たちにも、
元気を与えてくれているんですね」

それから、おふたりは、
ぼくを龍馬の隠れ部屋・
「桝屋清右衛門宅」へと案内してくれた。

「ここが、龍馬の隠れ部屋……」

思わず息をのむ。
長い歴史を重ねてきたその部屋からは、
深い趣と、ずしりとした重々しさを感じる。

龍馬が隠れ住んだという、まさにその部屋で、
龍馬についてよどみなく語る大西さんの話は、
ぼくを遠く、幕末へといざなう。

深い知識と洒脱な語り口で、
龍馬ファンをもうならせる、大西さんの解説。

お客さんと一体型で、
笑いを取りながら時間をさかのぼる。
この部屋に息づく龍馬と海援隊士らの気配が、
いよいよ、近く近く―。

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鞆の魅力

これからも、ずっと龍馬

龍馬はたくさんの仲間に支えられて、
何度も命拾いした。

他人とは疎遠になりがちな現代だが、
ぼくには鞆の浦の人たちは、龍馬たちのように、
支えあって暮らしているように見えた。

「鞆は人が優しい」

おふたりは口を揃えて言う。

「だから、わたしたちも鞆の浦の人たちを
裏切るようなことはできない」

その言葉からは、大西さんの、
人とのつながりを大切にしたいという、
誠実さが伝わってくる。

「鞆の魅力は、毎回新しいものに出会えること。
何度来ても楽しいこと」

そんなふうに語る佐藤さんからは、
鞆の浦へのあたたかい慈しみを、ふわりと感じることができる。

そうして、おふたりは生き生きとした表情で、続ける。

 ―ライフワークにしようと思っている。
 ―やらなくていいと言われるまで、続けたい。

これは、おふたりの確固とした意志が現れた、
力強い言葉だった。

おふたりの「鞆龍馬」への想いは、
どこまでも熱く、そして、まっすぐに―。

龍馬もこんな風に、強い意志で
未来を切り開いていったのだろう。

この町では、さっきまで他人だったとしても、
言葉を二、三交わせば、すぐに仲間になれる。
もうすでに、おふたりとぼくの心は、つながっていた。

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おふたりの人柄に
魅せられて

また来たい、また会いたい

ぼくはふと、時計を見た。
おっと、いけない。
もう、行かなくては。

とても名残惜しく、去り難くなっていた。

おふたりの興味深いお話、あたたかい笑顔、
ゆったりと流れる時間、心が洗われるような景色、
情緒ある建物、心地よい空間。

上げればキリがないほど、
ぼくを夢中にする場所と魅力的な方々だった、

また来たい、また会いたい―。

完全に心を奪われた自分に気がつく。
今度は友だちを連れて来よう、
そう心に決めて、おふたりと別れる。

少し歩いたところで振り返って、おふたりを見てみると、
ぼくとの出会いを大切にするように、
いつまでも、いつまでも、手をふってくれていた。

ちょっと龍馬に詳しくなったぼくは、
再び前へ向き直り、未来へと歩き始めた。

ぼくの心に、おふたりはずっと残るだろう。
そして、ぼくも、誰かの心に残るような、
そんな生を歩んでいきたいな、と思った―。

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Profile津田 葵
Nipponia Nippon
ニッポンを魅せる 故郷を魅せる 〜地域からニッポンを元気にする〜